糖度と糖分について

果物の甘さを表す指標としては、brix糖度(屈折率糖度)がよく使われます。これは、水に蔗糖を溶かした溶液は光の屈折率が水よりも大きくなるという原理を用いています。手持ちの屈折率計も卓上のデジタル表示の糖度計も基本的には同じ原理です。

しかし、非破壊糖度計については当社のN-1糖度計に限らず、その計測原理は屈折率とは無関係です。一般に使用されている近赤外線分光分析法もN-1で使用している散乱光路長補正吸収方式(TFDRS)も基本的には糖が特定の波長の光を吸収しやすいことを利用しています。吸収しやすい特定の波長の光は糖に限らず多くの物質で存在します。多くのものにさまざまな色があるのと同様に吸収しやすい波長が異なるだけです。氷砂糖や砂糖水は肉眼では無色透明に見えますが、もう少し波長の長い部分が見えれば色があるのです。

色が濃ければ糖分が多いように感じますが、実際は光を透す距離(厚み)によって濃淡は変わります。ガラス板は透明に見えますが、端面をみると青緑色に見えるのと同様です。つまり数ミリの厚みでは色がわかりませんが、端面から入って反対側の端面から出る光は数十センチの厚みを透過した光ですからはっきりとガラスの色がわかります。

液体であれば一定の厚みの容器に入れて光を透すことにより、この方法で糖分を測定することも可能ですが、固体である果物を無傷で計測するには工夫が必要です。N-1の用いている方法も糖による光の吸収で糖分を知るということが特許なのではなくて、非破壊でその方法を使えるようにしたことが特許であり、計測の原理自体は非常に古いものです。(特許謄本)

ではN-1糖度計は糖度を計測する機器なのでしょうか? 厳密に言えば、糖度を測るのではなくて糖分を計測する機器です。糖度(Brix糖度)というのは蔗糖溶液の屈折率を指標としています。したがって、ある溶液の屈折率が10 %の蔗糖溶液と同じであればBrix糖度は10度となります。ここで注意しなければならないのは、ある溶液とは蔗糖溶液とは限らないことです。次の表のように色々な溶液を実測すると、糖分とは別のBrix糖度が存在することがわかります。(測定値はおおよそのものです)

成 分 濃度(重量比) 糖 分 Brix糖度の表示値
蔗 糖 10 % 10 % 10.1 %
果 糖 10 % 10 % 9.7 %
クエン酸 10 % 0 % 9.3 %
リンゴ酸 10 % 0 % 8.1 %
味の素 10 % 0 % 11.1 %
だしの素 10 % ? % 10.2 %
食 塩 10 % 0 % 11.8 %

このように、糖分0%でも糖度は0ではないことにご注意下さい。つまり、糖度計は濃度計なのです。決して糖だけを抜き出して計測しているわけではありません。

レモンの糖度は意外と高いという話がありますが、糖度が高くとも糖分が多いとは限りません。一般の果物では屈折率を変化させる要素のほとんどが糖であることから糖度=糖分という「常識」が生まれました。しかし、温州みかんの場合、糖分が10 %であってもクエン酸が1 %あれば糖度は10.9度となります。糖度のすべてが糖分ではないのです。したがって、実際の糖分はBrix糖度より低いことになります。

また、糖度が高いほうが甘いとも限りません。糖分が同じならばBrix糖度は酸が強いほうが高くなってしまいますが、味覚では酸が少ないほうが甘く感じるからです。最終的には味覚を重視しなければ意味がありませんので、どのような測定器を使用するにしても、味覚との整合性は確かめておく必要があるのではないでしょうか。

精度について言えばジュースのような成分が調整された液体であれば別ですが、果物の場合、個々の成分にはばらつきがありますので、0.1 %の糖度差を議論することはあまり意味のあることではないでしょう。

デジタル表示の測定器の場合、表示の桁数と保障された精度とは異なります。コンピューターを使った機器ですから、その気になれば0.0001の桁まで表示することは簡単ですが、最小桁まで意味があるとは限りません。N-1糖度計も0.1度まで表示していますが、標準誤差が0.5~1度程度ですから0.1度や0.2度の違いはほとんど意味がありません。

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